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【インタビューNo.6】小野寺達也氏(フリーランスファンドレイザー・スタートアップ経営者)

2022/5/28

 大手銀行や森ビルのライブラリー事業マネージャー、東京大学渉外本部、オリックスグループの新規ビジネス開発マネージャーなどを経て、ファンドレイザーやさまざまな分野で活躍する小野寺達也氏(フリーランスファンドレイザー・スタートアップ経営者)に、お話を伺いました。

インタビュアー 樽本 哲

 

 

すべての経験が今につながり
社会に貢献できる事業をスタート

 

-多くの経歴をお持ちの小野寺さんですが、現在にいたるまでの経緯をお聞かせください。

大学を出た後、大手銀行に入行し、六本木ヒルズができた年に森ビルへ転職しました。アカデミーヒルズという部門に会員制の図書館があるのですが、その初代マネージャーに就任。コミュニティデザインや社会的インパクトといった言葉も一般的ではない時代でしたが、インディペンデント・コントラクターなど、スキルを活用した新しい働き方をする人と多く出会い、日々刺激を受けました。自分が何に向いているのかを考えていくうちに、東京大学(以下、東大)の渉外本部で、ファンドレイジングのチームが立ち上がると聞き、参画することになったんです。当時は、戦略的に寄付を集めている大学は限られており、教科書は欧米のものが中心。ファドレイジングやリレーションシップ・マネジメントといった仕事を知ったのも、この頃でしたね。その経験を活かして、2010年に行われた日本ファンドレイジング協会の第1回大会、翌年の第2回大会では、講師のような形で参加させていただきました。
東大には12年ほどいましたが、組織が大きくなって行く中で、もうひと踏ん張りしようと考えていた時、オリックスグループでオープンイノベーションを推進する部門を作るというお話をいただき、3回目の転職をしました。このあたりから、新しい人生がまたスタートした感じです。

-東大のファンドレイジングは、どちらかというとお金を集めてくる側だったと思うのですが、どのようなお考えから転職されたのですか?

公益性の高い事業や社会的インパクトにつながる事業に携わっていきたい、という思いがベースにあります。ファンドレイジングに関わるようになり、そこがより具体化されていきましたね。オリックスグループでは新規ビジネス開発マネージャーとなり、主にヘルスケア分野を担当しSIBの活用も考えたりしていました。その中でお世話になっていた先生がヘルスケアの分野においてご自身の知財で起業するという話を聞き、事業推進の役員として創業参画しました。組織の中ではなく、やはり自らが社会事業を起こすべきではないか、と考えたのです。
私自身が団塊ジュニア世代ということもあり、近い将来、必ず親の介護に直面していくでしょう。介護や認知症にも関わるヘルスケアの分野は日本でも大きな社会的課題の一つです。以前はまさか医療の仕事をするとは思っていませんでしたが、これまでのすべてがつながり、道が自然と決まった感じです。

 

日々の健康管理や予防に
アプリを駆使する時代へ

 

-今後、ヘルスケアの分野は日本において非常に重要なテーマですよね。2021年の5月に大学発のベンチャー、株式会社メドミライを創業したそうですが、内容はどういったものですか?

手がけているのは、DTx(デジタルセラピューティクス)や医療機器プログラムといわれる分野。スマートフォンアプリを利用して、健康管理や予防をサポートするシステムです。例えば、生活習慣病の患者さんに、アプリで食事や運動内容を提示したり、日々の振り返りの機会を提供したりすることで、健康の自分ごと化や行動変容をサポートする。これから開発が広がっていく領域です。

-そういったサービスを使えば、将来的に介護や認知症予防の分野においても活用できそうですね。先日カナダにいく機会があったのですが、日本に帰国後の隔離中は、スマートフォンのアプリを使って、毎日体調などを報告していました。私自身アプリでの健康管理は、現実的なものと感じます。

まずは、現役世代向けの取り組みを考えています。それがうまくいけば、シニア向けや子供向けを作っていけたらいいですね。医師が使うようになれば、こういったアプリの利用は劇的に増えていくのではないでしょうか。薬を飲むのと同じように、朝と夜にアプリを開いて健康を考える習慣が広がるとうれしいです。

 

スポーツと地域の活性化が鍵
地元に貢献できる取り組みを

 

-少し戻りますが、東大でお仕事をされていた時に、東京マラソン財団のチャリティ事業アドバイザーをはじめられたと伺いました。私は先日数年ぶりにプロ野球の観戦に行きましたが、球場の雰囲気がとにかく楽しくて。観客になった瞬間に、全員が平等になるという感覚を久しぶりに味わいました。

チャリティ事業アドバイザーをはじめて10年になります。いわゆる“Run for Charity”がスポーツチャリティの仕組みとして優れているとされる理由は、圧倒的に「参加選手」の数が多いということですよね。例えばコロナ前の東京マラソンは約3万6,000人が出走し、そのうち約5,000人がチャリティランナーでした。欧米のメジャー大会はもっとチャリティランナーの数が多い。チャリティランナーは一人ひとりが「自分が主役」だと思っていて、少数の選手と多くの観客といった一般的なチャリティマッチとは構造が異なります。当事者意識を持っている人が多いと、大会を通して何らかのチャリティに取り組みたいと考える人が自然と多くなる。ランニングやウォーキングは誰でも始めやすいというところもあるので、自分の中でもこの分野にこだわっていけたらと思っています。

-もともと大学ではアメフト部に在籍されていたとのことで、スポーツと関わりが深いのですね。今後、スポーツを軸にした活動は何か予定されていますか?

人生の中で、スポーツの領域が占めているところが大きいですが、まだまだ可能性を秘めた分野だと思っており、次のテーマは「スポーツを軸とした豊かな地域作り」です。
鎌倉インテルというサッカーチームが、スポーツやスタジアムを軸に、鎌倉を国際的な街にしようとか、子どもたちの学びの場や世代を超えたつながりの場を提供していこうとか、いろいろな素敵な夢を掲げていて、今はプロボノで携わっています。先日は、チーム主催で地元の企業や人を集め「スポーツチームと地域の活性化」をテーマにワークショップが開催されました。自分が住んでいるコミュニティの範囲で、何か貢献できたらいいですよね。
ある意味、勝手連的に公益的な事業をやろうとしているわけですが、官と民とか、事業者と支援者とか、そういった立場とか枠組みにこだわらず、自分たちの活動の中に公益性とか地域性のようなものを埋め込んでいくことが、ファンドレイジング人生において大切だ、とここ最近思っていますね。ある程度肌感覚のあるコミュニティの中では、納得感のあるインパクト評価みたいなものができるかもしれませんし。

 

スポーツとミッションをつなぎ
お互いに価値を高めていく

 

-インパクト評価は、まだまだ発展系ではあるものの、寄付者とのコミュニケーションの中で活用していくことが、正しい方法の一つではないでしょうか。私は今、フェアトレードの国内ライセンス認証をしている「認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン」という団体で理事をしていますが、スポーツ業界とのコラボレーションにおいてはまだ大きな成果は出せていません。最終的な目標が違うという理由で、縦割りになってしまいがちだと感じています。

そうですね。スポーツ自体の社会的価値と言っても漠然としてしまいますが、事業のPRだったり、ファン作りだったり、社会的な事業の発展に貢献できることはたくさんありますよね。さらに海外では、スポーツ選手だから社会貢献すべきといった「べき論」ではなくて、自らがNPOなどの活動に関わることで、人生を豊かにしようと考えているのではないでしょうか。ウェルネスとか、ウェルビーイングとか、身体的な健康だけでなく、精神的な、そして社会的な健康も大切という考え方もだいぶ社会に浸透していますよね。そういった文脈で活動の成果を評価できると、さまざまな関係者間のコミュニケーションが深まりますね。

-例えば、マラソンのエイドステーションでフェアトレードのバナナを採用するなど、スポーツが提供する価値に別の社会的な価値を加えることで、コレクティブインパクトを高めることはできないのでしょうか。

スポーツ業界にも事業や技術のわかる多様な人材が入ってきているので、これから進んでいくのではないかと感じています。そして、そういう人たちが最初の資金を獲得するところで足を止めてしまうことがないように、貢献できたらいいなと思います。

 

バランス感を大切にしながら
ドナーに寄り添うことが重要

 

-以前は基盤となる組織にお金を集め、社会の課題解決を見出すことをされていましたが、今はまさに事業を作って、社会で自らインパクトを出していらっしゃいますよね。両方やりがいがあると思いますが、寄付者と投資家というお金の出し手の違いについては、どのように感じていますか?

社会的インパクトを目指すという意味では似ていますが、寄付者は投資家に比べ、そこまでの経済的なリターンは期待していないとは思います。研究開発系のスタートアップでは、投資家と研究者をどうバランスしていくかが大切ですね。私は、研究者側からしたらファンドレイザーみたいなところがありますし、投資家からすると事業推進責任者になりますが、そういう意味では今までのキャリアがうまくはまっていると思います。

-小野寺さんの会社の中でのミッションや役割が、非常によく分かりました。私は、ただ寄付するだけではなくて、より主体的に社会変革や社会課題の解決に関わっていきたいという方のために、キフタントというサービスを提案しています。様々な立場を経験された今、社会貢献分野により多くの資金が寄せられるようになるためには、何が必要だとお考えですか。

いろいろとやってきましたけれども、正直なところ、出し手側に寄り添った立場の人やサービスが充実していないのでは、と感じていました。純粋に社会的課題の解決に貢献したい人がたくさんいる中で、期待した課題解決に結びつかず満足感があまり得られなかった、といった体験談を聞きます。税制的な問題も分かりにくいですよね。
出し手の意向にすべて従うということではなく、出し手側の視点を大切にしながら、課題解決のインパクトにつなげるような事業をアレンジすることが現時点の日本においては必要だと感じ、自分が事業サイドに寄り始めたのかもしれません。何が成功体験なのかに焦点を当て、ドナーが満足していただけるように協力していきたいと思っています。

-最後に、今後の展望を含めたメッセージをいただければと思います。

先ほども申し上げたように、いろいろな側面でドナーサイドに寄り添って、思いを実現するサービスは絶対に必要です。キフタントさんの活動がさらに広がっていくよう、お手伝いさせていただくのはもちろん、今後の展開に大きな期待をしています。

 

2022年4月22日 インタビュー

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